紅茶の生産高が世界一のインド。全世界での生産量の半分を占めます。かつては輸出がメインでしたが、近年は国内需要も高まってきているので、輸出量は減少傾向にあります。
インドで生産される紅茶は、そのほとんどがCTC製法ですが、一部では、オーソドックス製法による伝統も守られています。
インドでお茶の生産が始まったのは、19世紀です。上流階級から始まったイギリスの喫茶の習慣は、19世紀になると身分の別なく多くの人々の間に定着しました。それに伴い、紅茶需要が増加。中国との貿易赤字に悩んだイギリスは、中国に頼らない道を模索し始めました。
そこで、植民地インドの中でも中国のお茶の産地福建省などの気候に近い地域で、栽培を試みるようになりました。これが今日のダージリンやニルギリです。
さらにその後、アッサム種が発見されたことで、インドにおける紅茶生産は一気に加速していきます。
ところで、農産物には「地理的表示」というものがなされることがあります。つい最近では、国税庁が「“日本”の原料を使って“日本”で作られた酒のみ“日本酒”として販売できる」ようにする方針で動き出しましたね。
インドで生産されるお茶にも、地理的表示があって、それぞれの産地ごとにマークが定められています。インドで生産されるお茶は、「インド紅茶局」という機関によって品質が厳重に管理されています。インド紅茶局に認定されたお茶には、地域ごとにマークが定められています。マークには産地名が記入されているので、どこの産地のものなのかはマークをみれば一目瞭然です。パッケージにこのマークが記載されているならば、100%その産地のお茶であることを示すものです。
紅茶を買うときには、覚えておいてくださいね。
シッキム Sikkim
インド・シッキム州は、ヒマラヤ山脈の南麓です。西にネパール、東にブータンという二つの国にはさまれています。カンチェンジュンガ(8586m)をはじめ、28ものヒマラヤの峰と、80をこえる氷河、100以上の川があるという険しい地形です。土地には岩石が多く、農耕には向いていません。州の1/3は森林におおわれています。農耕は、標高が比較的低い南部で行われていますが、気候は全体的に冷涼です。6~8月はモンスーンの季節となりますが、最高気温が28℃を超えることはほとんどないといいます。地理的、気候的にダージリンとよく似ています。ですから、ダージリンに似たお茶が生まれます。
ファースト・フラッシュ、セカンド・フラッシュ、6~9月のモンスーン・シーズン茶、オータムナルと収穫が頻繁に行われるのが、シッキムの特徴。また、シーズンを通して花の香りがあります。特にセカンド・フラッシュでは、それが強まるといわれます。
栽培面積は200ha程度しかなく、小規模の茶園が多いため、年間の生産量も100tに届きません。オーソドックス製法で、紅茶が生産されています。唯一の大型茶園「テミ茶園」は、特に有名ですが、この茶園は州政府が管理をしている茶園です。
季節によって、茶葉の外観は変化しますが、発酵がやや弱く、緑色の混ざった黒褐色です。水色は薄い橙色で、ファーストフラッシュは薄い黄色になります。
ニルギリ Nilgiris
インドのお茶の銘産地の多くが北東部に位置しているのに対して、ニルギリは南インドに位置する産地です。
ニルギリとは「青い山脈」という意味ですが、インドの西海岸沿いの西ガッツ山脈一帯をさす呼称でもあります。標高2500mを超える西ガッツ山脈と東ガッツ山脈との南端が、ニルギリ丘陵。この丘陵地の1200~1800mのニルギリ高原が、ニルギリ紅茶の産地です。
ちょっと、ややこしいですね。
赤道に近いため日中の日差しは強烈で、茶園には写真のようなシェードツリーが見られます。しかし、標高が高いため、夏でも気温は25℃を上回ることはあまりありません。冬も、0~20℃とたいへん過ごしやすい気候です。この気候から、ヨーロッパの人々の夏の避暑地として開発されてきた歴史があります。ですから、道路の整備や鉄道の敷設は、19世紀末までの間に行われました。
お茶の栽培は、19世紀初頭に中国種を試験的に栽培したことに始まりますが、これは成果が上がりませんでした。本格的にこの地域で紅茶が生産されるようになるのは、ダージリンでの栽培に成功してからのことです。19世紀後半からはアッサム種の栽培が本格化し、現在ではこの地域の主要産業となりました。
ニルギリは、年間を通しての栽培が可能ですが、ベストシーズンは4~5月、9~12月といわれます。ニルギリ茶は、この期間にその60%が生産されます。西側斜面のクオリティーシーズンは1~2月、東側斜面で8~9月となっています。良質のクオリティーシーズンのお茶には、柑橘系の香りを感じさせるものもあります。90%以上は、CTC製法での生産です。
ニルギリの紅茶は、茶葉外観も水色も明るい色をしているのが特徴です。スリランカとも地理的に近く、気候や土壌もよく似ていますので、セイロン茶を思わせる香味をもつものもあります。すっきりとしたクセのない香味と、マイルドで爽快なフレーバーをもっています。強い渋みもなく、飲みやすい紅茶です。
テライTerai
インド北東部にあたるヒマラヤ山脈の南側に広がる海抜30~300mの平原に、テライがあります。北にはダージリン、マハナンダ川を挟んで東にはドアーズが控えます。テライとはヒンズー語で「丘陵地帯」を意味するのだとか。テライは一般的には、国境を隔てたネパールの南部に広がる帯状の低地をさしています。お茶の産地としてのインド・テライは、その東端にあたります。
ドアーズ同様、モンスーンの時期には、しばしば川が氾濫し水害に見舞われますが、ヒマラヤの山の恵みである肥沃な土壌をもたらしてくれます。年間平均気温は14~26℃で、多湿ではありますが比較的過ごしやすく、茶の栽培には適した気候です。
茶葉の生産時期は3月~11月、冬の期間はお休みです。栽培面積は2万haですので、規模はあまり大きくはありません。
お茶は、CTC製法でほとんどが国内向けとして生産されます。茶樹はアッサム系が主流ですが、アッサムやドアーズに比べて、全体的に柔らかい味わいであるといわれます。
茶葉外観は、暗褐色、水色はやや濃い赤色です。雨季をはさんだ春と秋に、ハイクオリティーのものが作られ、ダージリンに近い香りをもつものもあります。
ドアーズDooars
ドアーズは、西にダージリンと東にアッサムという二つの産地にはさまれた場所にあります。また西には、テライがあります。
この地域は海抜90~1750mの丘陵地帯です。ブータンの山々を源流とするいくつかの川が、流域であるこの地域にしばしば氾濫をもたらしました。氾濫によってもたらされた山の肥沃な土が、茶園の土壌を豊かにし、茶樹を育んでいます。年間の降雨量は、アッサム同様3500mmにも達し、モンスーンの季節は、5~9月まで続きます。
冬は冷え込みが強く、朝と夜には冷たい霧が発生します。標高が高いため、夏は、比較的過ごしやすくまた短いというのもこの地域の特徴です。
また、ドアーズは、野生動物の保護区や国立公園などが多く、動物などを目当てに訪れる観光客も多い自然の豊かな地域でもあります。
19世紀後半からイギリスの支配となり、その際に興った茶産業が現在でも主要産業となっています。
茶園には、シェードツリーという茶樹を強い日差しから守る樹が植えられています。象などの動物たちも、しばしばこの木陰を利用するのだとか。
茶樹はアッサム系がメインで、ほとんどがCTC製法、そのほとんどが国内向けティーバッグの原料となります。紅茶の生産時期は、3月~11月。茶葉外観は暗褐色、水色は濃い赤色です。香味ともにアッサム茶によく似ていますが、味わいはややマイルドです。